『ゴールドスミス動物誌』のなかに、雄バビルサの上顎の牙について次ぎのような記述があります. 「うしろにむかって曲がり、時には先端が眼の方にむかい、しばしば眼の中へ伸びて命とりになってしまう」と. 一般に、「上顎の牙の先端は巻き込むので、眼や額には刺さらない」と言われてきましたが、ジャワ島のスラバヤ動物園には、『ゴールドスミス動物誌』を実証するようなセレベスバビルサ(Babyrousa celebensis)が飼育されていたようです.
そのバビルサは、右側の上顎の牙がやや左後方に湾曲しながら成長し続けて、前頭骨に陥入してしまいました. つまり、その上顎の牙は自分の皮膚を二度も貫いたことになります. 写真は、ジャワ島のスラバヤ動物園が所蔵するセレベスバビルサの頭蓋骨を特別に許可をいただいて現地で撮影したものです.
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上顎の牙が額に突き刺さったバビルサ
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その先端の形から判断して、生息地で牙が一度折れてしまったようです. 捕獲以前にその雄の身に何が起こったのかは不明です. しかし、他の雄に比べて、彼の視界は牙1本分狭められているのは明らかです. 写真は、ジャワ島のスラバヤ動物園に導入された雄のセレベスバビルサを特別に許可をいただいて撮影したものです
1970年代の初頭から、ジャワ島のスラバヤ動物園ではセレベスバビルサ(Babyrousa celebensis) の繁殖に成功し、その子孫はインドネシア国内の動物園をはじめ、欧米の動物園に移されて飼育されてきました. 今のところ目立った問題は現われていませんが、長年の集団飼育の結果、近親交配が進んでいると考えれています.
そのため、1998年(?)スラバヤ動物園はスラウェシ島のマナドManado近郊のトモホンTomohonから野生のセレベスバビルサを導入しました. そのうちの1頭の雄は、何と5本の牙をもっていました! 上顎の右犬歯が付け根から2本一緒に寄り添うように生えています.
成獣では、下顎の牙を木の幹や岩に擦りつける、いわゆる「牙かけ」行動や、雄同士の戦いの時に、牙が折れることがあります. バビルサの牙は見た目ほど頑丈ではないとも言われています. 上下の牙ともに、咀嚼運動には関わりません. 写真は、中部スラウェシ州の住民が所蔵していたセレベスバビルサ(Babyrousa celebensis)の頭蓋骨を現地で撮影したものです.
Tusk 牙
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雄のバビルサだけに犬歯が巨大化した牙があります. 下顎の牙は、イノシシと同じように口内から斜め上に突き出ています. しかし、上顎の牙は決して口内には表れず、目と鼻の間の皮膚を貫いて上方に顔を出し、後方に湾曲します. これは、上顎の牙が上向きに口を開いている歯槽から素直に成長した結果なのです. つまり、上顎では、犬歯だけが上下逆向きの歯槽から生えてくるので必然的に皮膚を突き破るのです.
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Body Size 身体サイズ
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スラウェシ島に生息するセレベスバビルサ
(Babyrousa celebensis)のからだのサイズは、3種類の亜種のなかでは中間のサイズです.
雌雄でからだのサイズに違いがみられます. 雄では、体長約100cm、肩高65-80cm、体重約100kgです. 雌は、雄の7,8割程度です.
からだの割に、四肢は細長く、尾も長めです.
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バビルサの形態学上の最大の特徴は、上下の顎から突き出た2対の巨大な牙です.
それは雄バビルサのシンボルです. |
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Morphology 形態学 |
<フィールド1>last modified: 17 September 2007 |
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