バビルサは他のイノシシ科動物と同様に、川、沼、森林の湿地で、毎日数回泥浴びや水浴びをします. 泥浴びは、皮膚に寄生虫がつくのを防ぐのに役立つようです. 
 マレンゲ島は幾分起伏に富んだ地形であるため、森林の随所に低湿地がみられ、トギアンバビルサ(Babyrousa togeanensis)はぬた場(泥浴び場)として利用しています. そのサイズは1頭が泥浴びできる約2mのものから同時に数頭が一緒に泥浴びを楽しめるくらいの大きなサイズまで規模は様々です. 泥浴びを終えると、からだを近くの木の幹に擦りつけます. ぬた場の周辺には、パンギノキをはじめバビルサのエサとなる果樹がみられることが多いようです.
 Wallowing ぬた打ち(泥浴び)
 1995年、Patryらはスラウェシ島北部でセレベスバビルサ(Babyrousa celebensis)、226個体群のビデオ撮影に成功しています. その観察によると、雄の成獣は単独行動するものが多く、雌の成獣は子どもを伴うことが多かったそうです. 個体群サイズは、様々な要因によって左右されますが、その観察では最大8頭の個体群が観察されています. Claytonらによると、スラウェシ島北部のぬた場では、40頭を超えるセレベスバビルサが観察されるそうです.
 マレンゲ島に長年住む島民から得られた目撃情報によると、「トギアンバビルサ(Babyrousa togeanensis)は数頭の同じ位の発育段階の子どもを含む20頭近くの大集団をつくって行動することがある」ようです. マレンゲ島には川らしい川がないので、乾季にはバビルサは森林奥深くにある沼や湿地などの限られた水場やぬた場を求めて集まり大集団をつくりやすいのかもしれません. 今後、マレンゲ島でトギアンバビルサの個体群サイズと季節との関係に注目しようと思います.
 Group Structure 個体群構造 
 バビルサは優れた運動能力の持ち主です. セレベスバビルサ(Babyrousa celebensis)が鼻先と眼と耳だけを水面に出してスラウェシ島のポソ湖を横断する様子や島から島へと海を泳ぎ渡る様子が報告されています.
 バビルサは、嗅覚と聴覚も優れており、ヒトの気配を敏感に察知して全速力で茂みに逃げ込んでしまいます. マレンゲ島では、トギアンバビルサ(Babyrousa togeanensis)が40度を超える斜面を難なく上り下りする姿が島民によって目撃されています.
 かつて、スラバヤ動物園では生後6ヶ月の若いセレベスバビルサが夜中に120cmの柵を乗り越えたことがあるそうです!
 Swimming and Running 水泳と走行
 バビルサは他のイノシシ科動物と同じように、鼻息を荒くたてながら林床を歩き回ってエサを探します. 多くのイノシシ科動物は、鼻の先端に吻鼻骨(Os rostrale)をもつので、鼻先を土中に突き刺して根菜類や竹の子などを掘り起こせます. しかし、バビルサには吻鼻骨が存在しないため、精々、砂地や泥の中に鼻先を潜らせる程度で、踏み固められた地面を掘り起こせません. 
 Foraging 採餌 
 写真、上: マレンゲ島の森林にみられた小さなぬた場.
下左: ジャカルタのRagunan動物園でのぬた打ち. 下右: からだを木の幹に擦りつけるバビルサ.
 元々バビルサの亜種ごとに活動時間帯の違いがあるのかもしれませんが、生息地での対人間関係によって、バビルサの活動の時間帯に差がありそうです. 他のイノシシ科動物と同様に、ヒトと出会う頻度が低ければ日中でも活動し(昼行性)、ヒトと出会う頻度が高くなりバビルサが身の危険を感じるようになると活動時間帯が早朝や夕暮れ(薄明薄暮性)、あるいは夜間(夜行性)にシフトするようです. 
 スラウェシ島北部では、セレベスバビルサ(Babyrousa celebensis)の日中の行動が観察されています. トギアン諸島のマレンゲ島でも4,5年前までは、日中でもトギアンバビルサ(Babyrousa togeanensis)の勇姿が観察されたと聞きます. しかし現在では、島民でさえも日中の観察は困難な状況です. これは、バビルサがヒトを恐れて活動時間帯を変えただけではなく、マレンゲ島に生息する個体数の減少も関係がありそうです.
 Daily Rhythmic Activity 日周期活動
 野生のバビルサは非常に警戒心が強く、人の気配を感じると足早に逃げ去ってしまいます. 
そのため、彼らの行動は多くの謎に包まれています.
 Behaviour 行動
バビルサ豆百科
ENCYCLOPEDIA BABIRUSA


  <フィールド1>last modified: 17 September 2007