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last modified: 17 September 2007
Literary Arts
バビルサ文学
"An
History
of the Earth, and Animated Nature",
Oliver Goldsmith
1774.
『ゴールドスミス動物誌』,
オリヴァー・ゴールドスミス 1774年.
ゴールドスミス動物誌、第二巻 四足獣 U
玉井東助 訳
原書房
ISBN 4-562-02552-2
ヘアリーバビルサについて
ゴールドスミスはバビルサ3亜種のうちの「スラ諸島とブル島を生息地とするヘアリーバビルサ(
Babyrousa babyrussa
)」について記載しているようです.
次のような冒頭文から想像されます.
バビルーサはさらにカピバラ以上に豚の類からかけ離れている。しかしこの動物について語ったたいていの旅人は、ためらわずにこれを、それが主として見出される東インドの島であるブーロの豚と呼ぶ。
文中の「東インドの島であるブーロの豚」とは、「ブル島に生息するバビルサ」のことでしょうか。.
冒頭に続いて、次のようにバビルサの特徴が述べられています.
脚は豚より長く、鼻は短く、胴体はもっとほっそりとしており、どこか赤鹿に似たところがあるという。毛は細く灰色で、針毛というより羊毛に似て、尻毛もまた同じ毛で房になっている。
「針毛というより羊毛に似て」 これは、正しくヘアリーバビルサの特徴です!(
taxonomy 分類
参照). さらに、「尻毛もまた同じ毛で房になっている」とのこと. 筆者がチビノンの動物学博物館で観察させていただいたヘアリーバビルサの毛皮標本の特徴とも一致します.
牙の特徴について
野豚の牙のように円弧をえがいて曲がっており、下の二本は野豚のと同じくあごに立っているが、上の二本は上あごから、歯というよりむしろ角のように上方へそびえ立ち、そしてうしろにむかって曲がり、時には先端が眼の方にむかい、しばしば眼の中へ伸びて命とりになってしまう。
上顎の牙が前頭骨(額)に突き刺さったセレベスバビルサがいました(
morphology 形態学
参照)。この「眼の中へ伸びる」という自殺行為的な牙の成長は、あり得るはなしです。
バビルサのポークソテー?
バビルサの高い運動能力が述べられた後に、興味深い記述が続きます.
怒らせると猛だけしく恐ろしいが、いじめたりしなければおとなしく、とくに害をなしたりはしない。たやすくならすことができ、また肉は美味である。しかし短時間でじきに腐るそうだ。
この文章は、かつてはバビルサが家畜として飼育され、食肉にされていたことを示しています. 筆者らがバビルサの生息地の住民に聞き取り調査を行った際にも一部から、食味について同様の感想が聞かれましたので、事実のようです. はたして、ゴールドスミスも実際にバビルサのポークソテーなり、生姜焼きなりを味わったのでしょうか?
バビルサの寝相は?
ほかの大ていの大型動物とはちがった身体の休めかたをする。すなわち、上の牙の一本を木の枝にひっかけ、くつろいで身体全体をぶらりとぶら下げるのである。そんなふうに一本の歯でぶら下がって、一晩じゅう、彼らを餌食とする動物の手の届かないところで、まことに安全に過ごすのである。
その姿を想像してみてください! 湾曲した上顎の牙を枝に引っ掛けて、ブランコを楽しむような姿でくつろぐなんて!
言うまでも無く、雌バビルサにはブランコ遊びが出来るほどの牙はありませんので、雌バビルサが真っ先に「彼らを餌食とする動物」に捕食されてしまうことになりますね...... 兎に角、愉快な読み物に仕上がっています.
かつてのバビルサの生息地は......
これはボルネオ島にしかいない動物だといわれてきたが、それはまちがいである。なぜならそのほかにも、セレベス島とかエストリラ、セネガル、それにマダガスカルというように、アジアとアフリカの多くの場所でもよく知られている動物だからである。
解釈に苦しむ段落です. 1700年代には、バビルサがアフリカにも分布していたのでしょうか? 上顎の牙が側方に突き出るイボイノシシと混同していたのではないでしょうか?
牙の役割について
バビルサに関する最終段落に、「牙と生殖」についての重要な記述があります.
しかしもっと驚くべきことは、野豚の場合には、なにかの事故もしくは意図があって牙が折り取られると、その猛だけしさも性欲も減退してしまうことだ。
バビルサに限定せずに、「野豚」として一般化させて書かれています. 雄が自分の遺伝子を残す機会を得るためには、バランスの良い完全形の牙を備えていることが条件になるというのです. セレベスバビルサについて、Claytonらによる生息地での繁殖行動の観察でこれが確認されました。.
1990年代の末までに、飼育下のセレベスバビルサや生息地でのセレベスバビルサの行動観察に基づいていくつかの論文が発表されてきました. いくらか想像の産物や誤解も含まれているものの、基本的なバビルサの特徴が、1774年にすでにゴールドスミスによって記載されており、その情報は現在でも通用するものも多く、感服です.